月の岬 ーつきのみさきー

歌川広重名所江戸百景より

月の岬

水彩にて 模写絵師つねきち

(2021年12月頃仕上がり)


現在の港区三田あたりにあった妓楼で

月見の宴その後を描いた

と言われる浮世絵です。


※妓楼=芸子や遊女を置いて客に遊興させる場所

「宴のあと」をしみじみと感じられるような

がらりと空いた部屋の中にさしこむ

たおやかな月光。

お客が去った後に残るのは

白い行灯とたばこ盆、杯洗い、刺身の残った皿など。

右側には三味線が置かれています。

廊下には大きな徳利や箸

障子に映るシルエットの女性は

その簪(かんざし)から遊女である事がわかります。

この時代の遊女は高位になる程、簪の数が多くなったそうです。

床に落ちる着物の裾が

障子の木目模様とあいまって

艶かしい風情を醸し出しています。

海には帆を立てた弁財船が点々と見え

月に絡みつくような雁の群れ。


弁財船(べざいせん)は別名千石船(せんごくぶね)。

江戸時代に国内で重宝された和船で

1000石の米を積める大型のものでした。

一本の帆柱と大きな横帆を特徴とし

少数で運行できる性能の良い船だったようです。


雁は秋から冬にかけ、日本に渡ってくる鳥。

春になると、さらに北へ渡り繁殖をします。

思わず「どこの絵だろう?」と見てしまうような

予想外の配色です。

こってりとした秋のひと夜を

つねきちは感じ取ったのでしょうか。

印象深く濃厚な筆で塗り上げました。


まだ、料理のにおいも残るような

煩雑とした空間を

清めてくれる海からの風。


日常から解き放たれ

また日常に戻っていく。

そんなゆるやかな安堵を

思い出させてくれる、そんな一枚となりました。

模写絵師つね吉八卦鏡

知的障害を乗り越え描く、無垢な魂の筆使い。 つね吉が描く色合いは、渋みが主流の浮世絵とはちょっと違っています。 彼の目は時空を超えて当時の景色をそのまま映しているのです。 そんな独特の「つね吉流儀」をお楽しみください。

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